• 構想日本の活動

国と地方


1999/08/08(日)
政策ディスカッション「税制改革を考える」

構想日本は、「国際競争力のある税制」を目指し、法人・所得・相続各税の改革並びに歳出削減をパッケージにした提案を発表しましたが、提言作成メンバーと国会議員による政策ディスカッションを下記にて実施いたしました。 


構想日本側参加者
竹中 平蔵 慶應大学総合政策学部教授
杉浦 哲郎 富士総合研究所経済調査部長
加藤 秀樹 構想日本代表、慶應大学総合政策学部教授
丹治 幹雄 構想日本政策委員 

日時 平成10年8月6日(木)PM3:00~4:30 
場所 衆議院第一議員会館 第四会議室 
主催 構想日本 


概要

●第一部 政策提言発表 

1. 構想日本について (加藤) 

 構想日本は、役所の枠にとらわれない形で政策を作ることを目的とした団体である。色々な分野の専門家のネットワークにより具体的な政策を作り、それを発表している。政策によっては政治家の方に議員立法として利用して頂くのがベストだ。本日は、構想日本の税制に対する提言をたたき台に、日本の今後の税制のあり方について議論したい。また今後、このような党派を超えた政策議論の場を定期的に設けていきたい。 

2. 政策提言の骨子の説明 (加藤) 

 四つの視点から税制改正の提言を行う。(1)公正・公平性、(2)制度の国際競争力の確保、(3)納税意識の徹底、(4)景気浮揚効果、である。
 提言の具体的内容は以下の通り。 

A. 法人税率及び、所得税・相続税の最高税率の一律40%への引き下げを即時実施する。所得税については、所得区分境界を400・1000・2000万円とし、税率(住民税含む)を10・20・30・40%の4段階とする。これにより約8.5~9兆円の減税となる。

B. 課税最低限を200万円に引き下げる。公平な課税の観点から国民の大多数が納税を行うようにする必要がある。但し、景気の現状を考慮して最長5年間実施を猶予する。これにより3兆円規模の増税となる。

C. 個人所得の全員申告制を導入する。納税意識を高めるためには不可欠。その際、個人の経費を認めることで消費の喚起も可能となる。源泉徴収は継続する。

D. 上記A、Bの実施による歳入不足(5.5~6兆円)は歳出削減で対応する。但し、実施は景気に配慮して最長5年間猶予する。また、併せて赤字国債と建設国債の区別を廃止する。

E. 歳入不足を解消する一環として、国有資産の売却、流動化を行う。例としては、国有財産の売却のみならず、研究機関・国立大学がもつ知的財産の積極的活用などがある。

F. 中期財政計画を作る。欧米諸国では通例作成されており、市場や国民に対して財政プランを明示し、経済政策のベースになるものである。 
3. 日本経済の現状分析と今後の経済政策 (杉浦) 

 日本経済の不況の実態は、経済のグローバル化や規制緩和の進展で世界的に競争が激化したことにある。競争が進む中で勝者と敗者の二極化が進み、敗者の整理淘汰のプロセスが進行しつつある。この傾向は金融機関の貸し渋りにより助長されている。
 従来の日本経済は概ね平均値に集中しており、勝者・敗者の差も明確ではなかったため、経済政策も経済全体の景気を底上げする財政政策や金融政策が中心だった。

 しかし二極化が進んだ現状においては、これから成長が見込まれる分野を援助し、成功を促す環境を作る政策が重要になる。今後成長を牽引する分野は、常識的には経済の六割を占める消費の分野だが、最近の世界経済の潮流では消費ではなく、むしろ企業などの供給サイドが景気回復の原動力となっている。

 アメリカでは、90年代の好調な経済の原動力となったのは企業などの供給サイドである。80年代は毎年4%の経済成長をしたが、これに占める個人消費の寄与度は2.7%で、設備投資と輸出は合せて0.8%であった。これに対して、95年~97年の実質経済成長率は2.8%であり、その内の2.2%が輸出と設備投資によりもたらされている。つまり、消費主導型のアメリカ経済が行き詰まったのが80年代であり、それを復活させたのが企業などの供給サイドであった。

 このように世界経済の潮流がサプライサイドを強化する方向に向かいつつある中で、日本の成長産業をどう育成していくか。また高コスト構造が企業の競争力を引き下げる原因となっていて、これをどう是正するか。この二点が今回の提言の経済的な背景である。 

4. フロンティア時代の日本経済 (竹中) 

 今回の提言は経済のサプライサイドの減税を意図したものである。マスコミは減税に需要拡大効果を期待しているふしがあるが、減税による景気刺激効果は極めて弱いと考えるべきだ。消費や投資に最も強く影響を与える要因は減税ではなく、日本経済の期待成長率である。日本経済が今後どの位発展していけるか、それに対して投資家や消費者がどのくらいの確信を持てるかが今後の経済成長率を決定づけていくはずだ。
 その意味で、今の時代は大きな可能性を秘めたフロンティアの時代であるとの認識に立つ必要がある。現代には二つのフロンティアがある。一つはマーケットであり、もう一つは情報通信を中心とする技術分野である。フロンティアの時代はチャンスが増える反面、競争も激化する。日本は制度の競争力を高めて日本経済の潜在能力を活かし、速く走れる人間に速く走ってもらうシステムを作る必要がある。
 日本経済の潜在能力は高い。戦後最大の経済危機と言われているが、日本経済のベアはプラスであり、経済政策の失敗にもかかわらず国民生活の水準は下がっていないのがその証拠である。  また、今回の提言では所得税制のフラット化を求めている。これは、累進構造の進んだ社会は必然的に大きな政府を作ってしまう傾向があるとの認識からである。1980年代に小さな政府を作ったアメリカ・イギリスが、時を同じくして税制構造のフラット化を行ったことは、一つの教訓として注目すべきだろう。 

5. 税制の公平性について (丹治) 

 税制の公平性の観点からのポイントは、法人税率及び、所得税・相続税の最高税率を一律に40%に引き下げることである。所得税率の水準や所得区分境界については、今回の提言を議論のたたき台として国会等で議論を深めてもらいたい。
 課税最低限の200万円への引き下げについては色々と議論があるだろう。ただ、低所得者層に対する社会保障の政策義務と個人の納税義務とは本来的には別の問題と見なすべきである。政治家の方にはこの点についての問題提起を期待したい。
 最後にもう一点。税制構造を変えると必然的に財政構造も変化するはずだ。それゆえ、今後中期的な財政計画を立てることが必要だ。アメリカは今期財政黒字を達成できる見通しだが、その黒字をどう使うべきかという議論が既に始っている。こうしたアメリカの実態と比較して日本の取り組みは不十分ではないだろうか。 



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●第二部 質疑応答 



質問1 「短期的な対応は?」 中川正春氏 衆院議員(民主党) 

 供給サイドの減税の効果が現れるには10~15年かかると思う。与党にはこれだけ長期の時間的余裕はない。また、この政策でマーケットの信用が得られるかどうかも問題だ。私は野党の人間だが、与党の立場では短期的にはどういう対応を取るべきだろうか。 

回答 (竹中)
 われわれの考えは、まず減税を行う。その財源は基本的には歳出削減で賄う。したがって、財政のバランスは中期的には均衡する。ただし景気への影響を考慮して減税を先行させる。その間に需要拡大効果が起こる。5年後には小さな政府が誕生し、経済が更に活性化する、というもの。また、マーケットの信用を得るために中期財政計画を作ることも重要だ。 
質問2 「歳出削減の間の期待成長率は?」 林芳正氏 衆院議員(自民党) 

 今回の提言では5年間減税を先行させ、その後に歳出削減をするということだが、その間の期待成長率はどうなるのか。 

回答 (杉浦)
 減税を行い、歳出削減をする過程で失業者が増えることは避けられない。しかし、日本経済にはまだ十分な雇用拡大余地があり、労働者が職を変え、1~2年低賃金労働を受け入れることが出来れば、雇用調整が進み失業率は低下する。
 税制改革や規制改革などは景気回復の必要条件に過ぎない。経済を回復軌道に乗せるには企業の自助努力が重要である。日本政府はリストラなど、企業の自助努力を促すような政策・環境を作っていくべきだ。 
質問3 「財政・雇用・税制について」 坂井隆憲氏 衆院議員(自民党) 

 財政計画の収支見通しを示すのは困難だ。また、国会で議論する以上、計画は拘束性を持つことになる。アメリカやイギリスなどの財政収支計画は、あくまで見通しである。赤字国債と建設国債の区別を廃止する事には基本的には賛成だが、財政の規律をどう確保するかが問題となる。従来の財政法では不十分だ。
 雇用問題に関しては、日本では労働者の賃金が低下せず労働市場も整備されてないことに問題がある。アウトソーシングや人材派遣などを活用する事で労働力の需給調整の場を作らなければならない。
 税制について。個人的には所得税を減税し消費税を上げて資産課税を緩和する事が理想的であると思う。投資に対する課税を緩和する事で1200兆円もの個人金融資産の構成比率を預貯金から保険などの商品にシフトさせ、資本市場を育成していく必要がある。 

回答 (竹中)
 財政の収支見通しについては、それが見通しでも計画でも大差はない。大切なのはマーケットに対し政府が経済を今後どのように運営していくのかを示すことだ。日本の潜在的な経済成長率は高く、経済白書によると今後2%成長が可能だとしている。だが問題は、今の経済状況をいかにして安定的な2%成長の経済に導いて行くかという道筋が見えて来ないことである。
 財政の規律に関しては、全く新しいビジョンに基づくキャップ制を導入すべきだ。歳出削減には基本的にはキャップ制しかなく、別の方法があるとすれば資産売却である。現在 40兆円ほどの資産が売却可能であり、これに金利を掛ければすぐにでも数兆円の国債費負担が軽減できるはずだ。
 雇用問題について。不良債権を処理する過程では離職者が増加すると予想されるが、離職者の再雇用が日本経済にとって極めて重要になる。その意味で人材派遣を含めた雇用流動化は不可欠だ。ここでワークシェアリングという考えを提示したい。人材派遣、パートタイマーなど雇用流動化の促進措置の導入で、結果的にワークシェアリングの状態が達成される様にしなければならない。
 税制については、基本的に消費税のようにタックスベースの広いものを導入すべきだ。資産課税では色々な議論があるが、キャピタル課税は緩和されるべきだろう。これを行わないと、高齢化の進行とともに貯蓄率が大幅に減少することになる。 
回答 (加藤)
 財政構造改革に関して。財革法は凍結ではなく全面的に見直すべきだと考える。マーケットに対する明確なメッセージという意味でも単なる減税や補正予算ではなく、5~10 年後の財政・税制の構造について明確に説明する必要がある。また、財政法は現在色々な面で制約となっており、今後改正していく必要がある。会計法についても同様であり、大福帳方式の予算作成から企業会計を見習った公会計を作っていくべきだ。 
質問4 「国の借金について」 原口一博氏 衆院議員(民主党) 

 財政計画の元となる国の借金についてはどう考えているのか。またアメリカがサプライサイドの減税を行った時、結果的に貿易摩擦の問題を引き起こした。このフリクションの問題についてはどう考えているのかお聞きしたい。 

回答 (竹中)
 国の借金が良いか悪いかという問題は複雑で簡単に結論づけられない。特に日本の場合はアメリカと違って国民から借金をしており、この議論を突き詰めると最後は世代間の不公平という問題に行き着く。
 フリクションの問題だが、今はむしろ日本のサプライサイドが弱い事に問題がある。そうした国際競争力のない産業を保護する必要があったため、国際間で摩擦が起こった。サプライサイドへの減税は、長期的には企業に競争力を付けさせるので、逆に摩擦を減らす方向に働くはずだ。 
質問5 「新しい政府会計のあり方」 前田武志氏 衆院議員(民主党) 

 政府会計に企業会計の要素を導入する考えをどう思うか。また、不動産開発市場を育成し、従来の税金や公共事業に頼らない市場取引を通じての都市開発ができないかと思うが、その可能性はあるか。 

回答 (丹治)
 政府会計を完全に企業会計化する事は不可能だが、例えば特殊法人や公益法人、各省庁の個別プロジェクトなどを企業会計的に評価することは可能だ。国の財政についてもその効果を評価することは充分意味がある。
 日本に不動産開発市場が育たないのは、制度的な不備もあるが、国内の投資家の不動産に対する姿勢にも問題がある。現在の不動産市況では、不動産の購入主体の大半が海外の投資家であり、日本国内に不動産開発市場を育成することは難しい。ただ、都市開発という観点からすれば、開発のために何が必要かという議論が重要である。 
回答 (杉浦)
 以前、我々の方でも日本政府の生産性を計測しようと試みたが、結果的に不可能だった。基本的なデータが情報公開されてないために生産性を計測できないからである。 
質問6 「求められる政治的決断」 金田勝年氏 参院議員(自民党) 

 今回の提言は納得させられる面が多いが、国民が日本経済の先行きに対して大きな不安を抱いている現状では、これらの提言を実行する事は政治的に極めて大きな困難を伴う。その意味で今回の提言はいろいろな問題を抱えていると言わざるをえない。 

回答 (加藤)
 これは政治家にとって困難な決断を迫られる内容である。だが、こうした基本的な議論が政治家を含めて関係者の間でも十分行われていない。その意味で今後もこのような議論を通して政策論議のヴァージョンアップに努めていきたい。 
回答 (竹中)
 今の議論に関連して一つ問題提起をする。現在日本国債の格付けの引き下げが問題となっている。これは、日本経済が抱えるさまざまな問題点を先延ばしにしてきた結果発生した問題である。今、国債の格付けが引き下げられれば、金利は確実に上昇し、金融機関の相当数は市場から撤退を迫られることになる。日本経済の問題点を解消するには、かなり高度な政治的決断が必要だろうが、残された時間はあまり多くない。 
質問7 「公共事業について」 新藤義孝氏 衆院議員(自民党) 

 私は、公共事業を産業関連のインフラ、生活関連のインフラ、巨大プロジェクトによるインフラとに選り分けて、公共事業の積み上げ方式を変えることができないかと考えているが、何か良い案はないか。 

回答 (加藤)
 公共事業については議論が短絡的になる傾向があるが、重要なことは、どの地域にどんなインフラが必要かということを正しく評価することだ。これは今後の課題としたい。 


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