• 構想日本の活動

公会計制度


2000/01/01(土)
【論文】地方公会計改革は米国型の“堅実路線”で

<日付: 1999年12月20日>(2001年6月7日掲載)


中身が説明できるバランスシート作りを
―14自治体による共同研究会の目標― 
地方行政 1999年(平成11年)12月20日(月)

地方公会計研究会の発足

 去る十月一日、全国から十四の市区町が集まって「地方公会計研究会」が発足しました。群馬県太田市の清水聖義市長と構想日本の加藤秀樹代表が、行財政改革を強固に進めるための前提として、地方自治体の公会計改革の必要性について議論を交わしたことがキッカケとなりました。その後、両氏の呼び掛けで多くの首長の賛同を得、また、筆者の関係先も一部加わりました。
 
第一回の研究会に出席した自治体は、太田市のほか福島県会津若松市、同三春町、茨城県結城市、群馬県安中市、千葉県浦安市、東京都文京区、神奈川県鎌倉市、新潟県上越市、富山県砺波市、岐阜県羽島市、静岡県掛川市、愛知県高浜市、愛媛県今治市です。

 全国の自治体でパランスシート(BS、貸借対照表)を導入する動きが広がっていますが、その作成の「理念」や「基準」が明確になっておらず、困惑を感じている自治体も多くあるはずです。この共同研究会は、そうした現状を改善し、バランスシートが真に地方行政の発展に寄与するものとなるよう、自治体が主体的に研究しするところに特徴があります。そして、研究する統一基準は、いわば「目標基準」です。最低限満たすぺき「最低基準」ではありません。純粋に、地方公会計のあるぺき姿を研究し、何年かかるか分かりませんが、参加団体がその基準に近づくよう実践・努力するというものです。

アカウンタビリティー理念を明確に 

 研究会の事務局を務める構想日本では、数年前から日本の公会計を見直すよう提言してきました。今年の春に作成・公表し日本政府の推定パランスシートは、大きな反響を呼び、衆議院決算行政監視委員会の審議において意見を求められることにもなりました。また、県レペルでも、行政改革に熱意を持つ知事と構想日本との会談がキッカケとなって共同研究会が発足し、目下、岩手、宮城、秋田、石川、岐阜、静岡、三重、滋賀、高知の九県が活動を展開、構想日本も支援しています。今回発足した基礎的自治体における地方公会計研究会も、県の共同研究会も、発足の趣旨やバランスシートに対する理念は基本的に同じ方向を目指しています。

 バランスシートの基本理念が自治体におけるアカウンタピリティー(説明責任)の推進にあり、それが民主主義国家の行政府において、極めて重要な仕組みであることは、研究会の参加団体の共通認識です。具体的な行政改革のツールとしても必須(ひっす)のシステムであり、「行政評価を推進する過程で、自らの財産の状況を知る」(清水太田市長)前提です。この点、文京区の煙山カ区長も行政評価システムとバランスシートの導入を行革の「車の両輪」として重視し、経営改善懇談会を発足させ、より効果的な導入方法を検討するよう諮問しています(筆者も懇談会の副座長として支援しています)。

 また、パランスシートを用いて「政策・施策のコスト計算を行うことが重要」(松崎秀樹浦安市長)であり、それによって「職員の意識改革に使う」(宮越馨上越市長)ことができる取り組みにすることも求められます。さらに、「統一した基準で取り組むことは、財政を市民に分かりやすく説明することができる」(菅家一郎会津若松市)のであり、「市民になじみやすい企業会計的手法による財政状況を示していける」(平塚明結城市長)と考えます。そうしてこそ「住民本位の政策判断が実現し、効率的な行財政運営が推進される」(繁信順一今治市長)と考えます。

VFMの測定を 

 自治体の財政が厳しさを増す中、あれももこれもの行政運営はもはや過去のものになったと言えます。それでも必要不可欠な行政サーピスを維持し、さらに住民満足を増進するには、政策コストを測定してそれに見合った住民満足を得るよう努カし、運営することが大切になります。まさに、費用(コスト)対効果、いわゆるValue For Moneyが重要な指標となるのです。

 しかし、現在の官庁会計では、資金の動きを記録するのみで、「コスト」という概念は重視されていませんし、大方の職員の意識も同様です。その背景には、自治体の行政サーピスは、法令で定められた必要不可決なものであり、営利を目的とするものでもないからだ、という認識があります。しかし、この研究会では、営業売り上げの獲得を目的とする営利企業であれ、住民満足の増進を目的とする自治体であれ、目的達成のためのコストを最小に抑えるぺきだという点は同じであるという共通認識を持っています。

 一方、コスト計算だけでは行政運営の指標として十分には機能しません。そのコストに見合った住民満足があったかどうかという「満足度の測定が重要」(菅家会津若松市長)なのです。そのために、「住民満足の調査測定の技法を開発することが大切」(宮越上越市長)であり、そのため、行政評価の取り組みとの連動が不可欠と考えます。

「附属明細表」で中身を説明

 自治体におけるアカウンタピリティーは、行政と住民との間におけるキャッチボールのような形で推進されるものだと考えます。パランスシートは、行政から住民への、“第一球”です。住民は、投げ掛けられたパランスシートを見て、疑問や関心を持った個所について、さらに詳細な説明を行政に求めることになります。これに対して行政は、バランスシートの諸項目について、内容明細をすことになります。

 要するに、パランスシートは、アカウンタピリテイーを推進する第一歩なのです。実際には、バランスシートの諸項目について詳細を説明する内訳明細である「附属明細表」がアカウンタビリティーの中核をなします。

 バランスシートは、自治体の財政という「本の表紙または目次」にすぎません。本の表紙や目次を見ただけでは本の中身を理解することはできません。これと同じように、バランスシートだけでは財政状態の十分な説明はできないのです。それでもバランスシートが必要なのは、財政状態を理解するうえでの「一覧性」と「網羅性」を与えてくれるからです。

 従って、住民としては、パランスシートによってその自治体の財政状態を概観したならぱ、次は諸項目の内訳について行政に説明を求めることになります。これがパランスシートの本当の使われ方といえましよう。

 ここで問題となるのは、バランスシートの導入方法です。先行する自治体の中には、社会資本の評価を、決算数値を足し込むことによって行っている団体が多くあります。このような「簡便法」では、パランスシートの諸項目について附属明細表を作成することはできませんし、台帳や証憑といった詳細資料とも連動していません。

 要するに、本の表紙または目次を示すことはできても、肝心な中身は説明できないのです。「この項目について詳細を示してほしい」という、.ハランスシートであれぱ当然の質問にも答えることができません。それもそのはず、そもそもパランスシートを「作成」したのではなく、「分析」したにすぎないからです。分析値では、行財政評価の実務において具体的に活用できないのは当然です。

 共同研究会の参加団体の中には、既に決算統計方式によってパランスシートを導入したところも少なくありません。しかし、中身を説明できず、個別具体的な評価を行うことができない決算統計方式は「活用できない」という意見で一致しています。県レペルの共同研究会やその他のさまざまな先行する自治体でも、この認識は共通のものになっています。こうした事態を踏まえて、共同研究会では、多少の労力がかかっても、また、網羅性において不完全なものになっても、中身が説明できる程度に整備された項目から順次パランスシートに計上し、少しずつ精度を高めてこうと考えています。

資産評価が最大の論点 

 自治体のバランスシートで、最も重要な課題となるのはやはり資産評価でしょう。自治体の資産には、大きく財務資産と経済資産とがあります。財務資産には、現金、預金、債権、出資・出捐金、基金(一部土地等も含まれますが)あります。一方、経済資産には、「財産に関する調書」に含まれる公有財産、物品、工作物、無体財産に加え、道路(トンネルを含む)橋りょう、河川(ダムを含む)、砂防、海岸、港湾、都市公園といった土木施設、治山(地滑り防止施設など)、造林、漁港などの農林水産施設などが含まれます(もっとも県と市では異なりますが)。

 バランスシート作りで大きな課題となるのが経済資産の評価です。このうち公有財産については、一部の自治体では、会計管理(貨幣値による評価)がなされていますが、その他の経済資産については、会計管理がなされている自治体は皆無に等しい上京です(部分的には、管理資料として作成されている場合もありますが)。こういった帳票管理の状況下で、どれだけの資産を拾い上げることができるのか疑問視されることも多々あります。

 この資産評価の困難性ゆえに、多くの自治体が決算統計方式という簡便法を採用したというのが実情でしょう。さらに、何らかの貨幣値で評価するにしても、原価主義で評価するか時価主義で評価するかが大きな論点となります。

米国の州・地方政府の改革 

 社会資本の評価について、米国の州および地方政府における最近の動向が参考になります。米国の州およぴ地方政府の会計基準は、政府会計基準審議会(Governmental Accounting Standards Board=GASB)が作成しています。GASBは、昨今、道路等の社会資本について、財務報告の抜本的な改革を進めています。今年五月に公開指針を示し、六月には、財務報告の抜本的な改革を求める「報告書第三十四号」を公表しました。

 その主な内容は、道路等の社会資本をバランスシートに計上するというものです。現在の州およぴ地方政府のバランスシートは、財務資産が中心であり、社会資本の評価・計上は推奨こそされていましたが、義務付けられてはいませんでした。報告書第十四号は、それを改正し、社会資本の計上義務付けることにしたのです。同様に、決算審査に関しても、監査人から「適正意見」を得るためには、この基準に準拠しなければならなくなることも記されています。

「原価主義」の意図を鮮明に 

 GASBによると、そもそもパランスシートの実務において、どれだけの公金を社会資本の整備のために投下し、一方で、どれだけの借入金が残っているのかを示すことが重要であるとしています。さらに、歳出総額に占める社会資本等の固定資産建設が大きい政府活動の財政実態を勘案すると、これらを含まないバランスシートは「大きな手抜かり」であったとさえ説明しています。

 この社会資本の取り扱いに係る主な特徴は、1.原価主義であること 2.個別評価を前提に見積原価等の簡便法を容認していることです。1.に関して、資産評価の基準を原価主義によるか時価主義によるのかは、地方公会計の主要論点の一つです。

 一般に時価とは「売却時価」と「購買時価」の二つがあります。売却時価とは、もしその資産を売却したならぱいくらで売れるか、という時価です。購買時価とは、再ぴその資産を取得する場合にはいくらかかるか、という時価です。道路等の社会資本の場合、売却することはほぽあり得ないので、売却時価での評価は不適当ということになります。一方、購買時価であれぱ、公共サーピスの継続性から、資産の損耗・滅失時においてはその資産を再取得しなけれぱならないのであり、その際の時価で評価することには一定の合理性があります。これを踏まえて、原価主義か時価主義かを論じたうえで、GASBは原価主義を採用したのです。

 その根拠として、時価主義を採用した場合、社会資本の評価額が膨れ上がってしまうから、と説明しています。すなわち、パランスシートにおける正味財産(Financial Position)を不当に膨らませ、さらに、社会資本をコスト化した際の減価償却費をも膨張させるのです。特に、減価償却費が膨張すると、租税等と比較・突合される「行政コスト計算書」において、計算の合理性を失わせてしまうということです。租税等は、行政サーピスの実際のコスト(原価)を根拠にしている以上、資産評価は原価でなければならないと考えたのでしょう。また、時価主義の場合、毎年評価替えを実施しなければ、各年度の評価額としての一貫性を欠くという実務上の困難性も指摘されています。

簡便法にも堅実な視点あり

 次に、評価手法における簡便法を許容している点について説明します。ここでの簡便法とは、日本の自治体でブームになっている決算統計方式とは、根本的に異なります。バランスシートの諸項目は、「内訳の説明ができること」が大前提だからです。従って、簡便法とはいえ、台帳に基づいて資産を個別に評価することが前提条件です。

 社会資本の評価は、原則的には、それぞれの資産の建設時における実際の支出額によって行います。しかし、それらの資料が良好な状態で残っていない場合は、見積原価の採用を妨げないというものです。具体的には、再取得価格等の時価で個々の資産を評価し、その資産を取得したとき以降の物価上昇分について一定率で割引計算することにより、実際の原価を見積もるという方法です。

 また、政府には百年以上も府くるから保有しつづけている資産も多くありますが、どのくらい遡る必要があるのかも検討されています。この点、GASBは、古い資産を評価することのコストと、正確な情報が得られることの利益とを比較した結果、二十五年以内に取得した資産について、バランスシートに計上すれば足りるという容認規定を設けています。

 さらに、年間の租税等の収入が一千万ドル未満の小規模な政府は、過去に取得した資産を無視し、将来に取得した資産をパランスシートに計上すれば足りるとしています。「小規模な政府」の範囲をもっと広げてもよいのでないかとも思われますが、将来に取得した資産のみを個別に原価で評価すれぱ足りるという簡便法は注目に値します。日本の自治体でブームになっている決算統計方式などに比べると、この簡便法の方がよほど堅実で、地に足の着いた取り組みであり、前向きの簡便法だと筆者は評価しています。

主体的な工夫が大切 

 パランスシート作成の「統一基準」とは、あくまで、基本構造の統一でよいと考えます。パランスシートの中身の説明が可能である台帳方弐の採用であるとか、財務諸表の基本構成や表示様式などの統一です。詳細な部分については、おのおの自治体が自ら工夫を凝らし、自らがアピールしたい部分が明瞭に伝わる方法を開発すればよいのです。

 「会計」には、「財務会計」という外部報告を目的とした会計と、「管理会計」という内部管理を目的とした会計gとがあります。財務会計は、そもそも、外部関係者に、その団体の財務的な状況を客観的に説明するツールなので、民間企業などでは、完全に統一基準で作成されています。しかし、管理会計は、それぞれの団体が、その時その時の状況と目的により、必要に応じて行う会計であり、統一基準などあり得ません。

 日本の自治体に、パランスシートは制度的な形では導入されていないので、管理会計的な性格も併せ持っているといえます。この点を踏まえると、さまざまな基準があってもよいのです。決算統計方式も、「過去の投資累積額を示す」という限定的な作成目的であるならば、問題ないと考えます。

 しかし、諸項目の中身を説明できないパランスシートなど存在しないのであり、この方法の場合、パランスシートの「作成」ではなく、あくまで「分析」であると明記すべきです。しかし、中身が分からないバランスシートを「アカウンタビリティーのために導入した」とは少し寂しい気もします。

 共同研究会では、「活用できるバランスシート」を目的としていますので、バランスシートの諸項目の評価額と原課の台帳とを関連づけることは前提になると考えています。そのうえで、附属明細表を充実させたり、成果報告書を導入するなどして、「行政評価」の領域へと、バランスシートを発展させ連動させることを考えています。



お問合せ先: 構想日本
102‐0093東京都千代田区平河町2‐11‐2渡辺ビル3F
TEL:03-5275-5607 FAX:03-5275-5617
e-mail:info@kosonippon.org
URL:http://www.kosonippon.org/



公会計制度一覧へ戻る