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公会計制度


2000/06/12(月)
【論文】自治省研究会の報告書を読む

地方行政 平成12年(2000年)6月12日(月)

 自治省財政局指導課が庶務を務める「地方公共団体の総合的な財政分析に関する調査研究会」が、自治体のパンシスシートの在り方についての報告書を三月にまとめました(4ページの図1参照)。、昨今注目の度を高めつつあるバランスシート(貸借対照表)は、もばや地方行政運営におけるキーワードの一つになったといってよさそうです。本稿では、この報告書の意義を中心にパランスシートのあり方について総論をまとめます。

制度的導入と分析的導入

 パランスシートへの自治体の取り組みは、、昭和六十年前後から自主的始まり、今日に至るまで既に多くの事例があります。昭和には熊本県、平成に入って三重県や神奈川県藤沢市、昨年の東京都、神奈川県、今年は岩手県、秋田県、高知県、群鳥県太田市などが先進的な取り組みを見せています。一方でパランスシートは、上・下水道や病院、交通など地方公営企業法の財務規定の適用を受ける公営事業では、予算・決算において既になじみの制度となっています。もちろん、地方公社や財団法人等の財政援助団体、さらに民間の株式会社、公益法人、学校法人にも同様にバランスシートが導入されています。しかし、自治体のバランスシートには、「制度」的導入と「分析」的導入があり、この違いを正確に理解することが、バランスシートを正しく運営する上でとても大切です。

 すなわち、地方公営企業のバランスシートは、地方公営企業法令による制度的導入で、条例や規則等に根拠かあり、自治体の現場においては、日々処理する支出伝票の様式、財務会計システムからして、一般会計や他の特別会計とは異なるものになっています。これに対し、一般会計等を規律する地方自治法令にはバランスシートによる予算・決算の定めはありません。これを補足する目的で三重県などが取り組んだのが、決算統計(地方財政状況調査表)を活用した分析的なパランスシートです。

 この方法は、決算統計を過去にさかのぽって足し込んだ額を資産評価額とみなしているので、個々の資産の評価額は不明であり、評価額の総額に見合った財産が所有されているか、実在するかの確証は持てません。この点、個々の財産を棚卸しして開始(初めて作る)バランスシートを作成した上で導入する地方公営企業のバランスシートよりも、著しく精度が劣ります。それでも自治体のストックの概要を推測するという観点からみれば、それなりに重要な情報としての価値があるのは間違いないところでしょう。今回の報告書は、この分析的バランスシートに一定の基準を示したもので、一九八七年(昭和六十二年)三月の財団法人地方自治協会の研究(「地方公共団体のストックの分析評価手法に関する調査研究報告書」)を引き継いでいるといえます。

 一方、地方自治法令を改正して自治体の決算に制度的にパランスシートを導入すぺきだとの結論を出した六二年(同三十七年)の地方財務会計制度調査会(会長・田中二郎博士)の答申は極めて重要な地位にあります。この答申や翌年の地方自治法の改正に対しては、さまざまな意見があるところですが、四十年近くも前に制度的バランスシートを議論した最初の取り組みであり注目すぺきです。分析的導入でなく制度的導入となれぱ、地方自治法令の改正を前提として研究する必要があり、冒頭の研究会の管轄には収まらなくなるでしょう。少なくとも一応の形ができるまでに十年はかかるのではないでし上うか。

比較可能性と容易性を重視

 研究会が基本的課題として当初に据えていたのは、1.経常収支比率、起債制限比率などの現在の指標の再検討2.人口や産業構造から行う現行の類似団体の再検討3.パランスシートや行政評価も含めた総合的な財政状況の把握のための手法の検討―の三点です。しかし、バランスシートがあまりに強い関心を集めていることから、これを優先して研究することになったのです。

 今回の報告書の特徴を一言にまとめるならば、「比較可能性」と「容易性」ではないかと筆者は考えます。このことは、報告書の「Ⅱ研究会の検討の概要」(本誌4月13日号を参照)に省いて、取得原価主義の方が「地方公共団体間の比較にも馴染む」とか、決算統計のデータを用いることで「小規模な地方公共団体でも比較的容易に取り組むことが可能になる」といった記述にも表れています。

 容易性については、自治省が開催した都道府県財政課長・地方課長会議で、担当課長補佐が「小さな町村でも取り組めるような物差しづくりを目指した」ことを特にしたといいます。これはある意味でもっともな話です。なにしろ三千を超える市区町村には、人口数百万人の都市もあれぱ、千人に満たない町村もあるのですから、全国の「統一基準」は、最低限取り組むぺきパランスシートの基準にならざるを得ないのです(容易性)。道路等の社会資本はもちろんのこと管財課が所管する公有財産台帳においても、大半の市町村で、金銭評価額を付す会計管理が実施されていないことを考慮し、台帳方式は困難と判断したのでしよう。

 また、現行の決算統計は、歳入歳出というフロー情報と地方債等の若干のストック情報で、自体間の比較をそれなりに客観的に行い、地方財政全体の統計数値の基礎にもなっています。従って、これを用いれぱ自治体のこれまでの投資活動の実績を比較することができるというメリットがあり、自らの投資活動の相対的な特徴を把握したいという自治体の要望にこたえることにもなるのです(比較可能性)。

 ただし・改革志向のある自治体ならぱ、この趣旨をくみ取って、比較可能性の観点からの決算統計の累計計算を実施しつつ、より活用可能なバランスシートの導入に向けて発展的で主体的な取り組みが期待されていることも忘れてはいけません(活用可能性)。このことには、報告書も触れており、「作成手法の一層の改良・改善を図るこが期待される」との記述や、後述する「付属書類」の作成を求める工夫をしている点から、研究会の意図をうかがい知ることができます。

決算統計方式と台帳方式 

 前述した先行自治体の取り組みの流れには、一つの節目があります。熊本県・三重県、藤沢市といった先発隊は、八七年の地方自治協会の研究を参考にしており、基本的に決算銃計による分析的バランスシートに取り組みました。しかし、東京都が公有財産台帳を基礎資料とする台帳方式の採用を明確に打ち出してから(東京都は、道路・橋りょうに関する普通建設事業費の累計額を、あえてバランスシートの欄外に注記するという徹底ぶりが印象的です)、大規模団体においては、台帳方式が基本路線となり、神奈川、岩手、秋田、高知の各県などがそれを引き継ぎ、さらに発展させています。

 大規模団体がそうすぺきであることは、報告書が「小規模な地方公共団体」を基本的に想定し、市町村を対象とした作成指針(「参考資料」)を用意していることからも、逆に推測できます(市は「小規模な地方公共団体」に含まないと見るぺきだと筆者は考えます)。

 もっとも、ここでの台帳方式とは、個々の施設に金銭評価額を付すことを意味しますが、市町村においては、その対象範囲は、当面、公有財産台帳のみとするのが精いっぱいのようです。道路台帳の改善は、もう少し時間をかけてあるぺき姿を研究する必要があります。ただ、市町村は、土木・農林水産部門で多種多様な施設を抱える都道府県と異なり、道路を除けば公有財産台帳がおおよその資産を網羅しており、公有財産台帳さえ改善すれば、道路以外のおおよその政策・施策の個別の評価が可能になります。

 なお、筆者のもとには、「台帳方式で試作したので見てほしい」と多くのバランスシートが届いており、中には、村が道路台帳をもそれなりに見直した上で台帳方式によるパランスシートを試作した事例もあります(もっとも小規模な村だからこそ道路台帳を改善できたのではないかとの指摘もあり得ますが)。結局は、自治体自らの改善の意思が問われているのではないでしょうか。

これまでの緩慢な基準に一石 

 一方、報告書は決算統計方式による作成基準を示しているのですが、これまでの決算統計方式による先行自治体のバランスシートにはなかった厳しい視点を持っています。

 先行自治体の多くは、道路等の社会資本、減価償却の対象から除外していました。これは、維持修繕活動によって、その機能的水準に価値の減少は認められないというのが理由でした。また、明確な理由なくむやみに長い耐用年数を設定している事例も多く見られました。さらに、その効果が長期に及ぶとの理由から、民間企業の「繰り延べ資産」の考え方を援用し、他団体への施設整備補助金までもバランスシートに試算として計上した事例が多くありました。これにより、バランスシートの資産価額が年々膨張する結果となりました。負債においても、退職給与引当金を100%で計上せず、正味資産がパプルの状態となって現実の財政とかけ離れた結果となり、財政担当者は首をかしげていたのです。

 この点、報告書では、物質的に減価しない土地を除いて、すぺての社会資本に減価償却を義務付けました。また、道路の耐用年数を十五年とし、基礎数値を決算統計の「決算額」ではなく、そのうち「その団体で行うもの」に限定し、他団体への補助金等を除外しました。さらに、退職給与引当金は一〇〇%計上するとしたととも重要です。

 市町村の多くは、退職手当組合に加入していますが、これにかかわりなく一〇〇%の引き当て計上を定めた点には、財政状態を厳しく評価しようとする研究会の姿勢が表れています。この退職手当組合の加入にかかわらずとする退職手当の扱いには、合理的理由がないとする意見も聞かれそうですが、多くの退職手当組合の積立金が十分ではないことを考慮すると(退職手当の要支給額の十数%程度しか積み立てられていない組合も多い)、保守主義の見地から、報告書の定めはそれなりに妥当なものといえましょう。


「主な施設の状況」に研究会の真意 

 報告書は、「附属書類」の作成を定めています。主なものとして、1.有形固定資産明細表2.土地明細表3.普通建設事業費に係る補助金、負担金等の状況4.主な施設の状況(4ページの図2参照)の四つを例示しています。1.から3.は、基本的に決算統計を基礎とする補足情報ですが、4.の「主な施設の状況」だけは異質です。

 この「主な施設の状況」という附属書類は、主な有形固定資産の名称、取得価額、減価償却累計額等の情報を表示するのですが、それは、老人ホーム、ごみ処理施設、図書館、博物館などの個別の施設を想定しているものです。これらは決算銃計からは判別しない情報であり、まさしく財産台帳のある程度の改善を期待する附属書頼です。このことは、報告書の「Ⅱ当研究会の検討の概要」においても、「『財産に関する調書』等の内容を踏まえ、主な有形固定資産について、附属書類で取得価額、減価償却累計額等の情報を表示する」と明記されています。

 この定めは、容易性の観点から決算統計方式を採用しつつも、本来、バランスシートのあるぺき姿として台帳方式を描いていることの表れとみてよいでしょう。将来、財産台帳の整備が進んだ暁には、パランスシート上の決算統計の数値と置き換えることもできるのです。筆者は、容易性の観点から決算統計方式を採用しつつも、財産台帳を根拠とする「主な施設の状況」の作成を求めたところに、小規模な町村に配慮しつつ、公有財産台帳の整備を期待するという、研究会の自治体に対する真の期待が込められているのではないかと考えます。

 もっとも、公有財産台帳に金銭評価額を付している自治体の多くは、物価変動率と償却率(残存率)を定期的に加味し、評価替えを実施しているのが通例です。そうなると、当初の取得価額が不明であったり、その結果、減価償却累計額も不明であるなどの不都合も予想されます。また、公有財産台帳の評価額に物価変動率が加味されているとなると、決算統計方式が完全な原価主義であるのに対し、公有財産台帳から数値を拾ってきた主な施設の状況の評価額は修正原価主義(原価主義である取得価額に物価変動率を加味すること)となり不整合が生じます。この点、当面の運用方法としては、多少の不整合による弊害よりも、個別の施設の状況が明らかになる明瞭性に重きを置き、主な施設の状況などの附属書類を充実させることが大切だと考えます。

 なお、資産の評価基準としては、通常、原価主義(修正原価主義もあります)と時価主義とがあり、時価には、売却時価と購買時価とがあります。報告書は、実際の施設整備コスト(実際の支出額)を明らかにする観点から原価主義を採用したのですが、時価にも合理性がある場合もあります。社会資本の場合、売却時価は無意味ですが、購買時価であれば、施設の再整備のコストを認識する意味などがあります。また、普通財産のうち売却見込みのあるものならば、売却時価で評価することも選択肢に入ってきます(この論点については、廣田達人「地方公会計改革は米国型の堅実路線で」(本誌99年12月20日号を参照)。

行政コスト計算書の導入を 

 パランスシートは、ストック(時点)情報ですから、その相手役となるフロー(期間)情報が必要になります。地方公営企業や民間企業では、バランスシートと損益計算書の二者が一対となって財務諸表を構成していますが、これは、ストックとフローが連鎖の形をもって有機的一体をなし、それで初めて組織の財政状況を総合的に把握することができるとの認識によるものです。

 それでは、自治体のパランスシートの相手役となるフロー情報とは何なのでしょうか。研究会では、「行政運営コストの算定」として、「減価償却の考え方を発展させることにより、当該会計年度の現金の出納に止まらず、行政運営コストを説明する計算書が作成できる」(報告書)と考えたものの、「Ⅱ当研究会の検討の概要」において、「行政運営コストの分析等が議論されたが、これらについては、今後、バランスシートの作成事例を積み重ねる中で分析の知見を増すことが必要であると考えられる」と結論付けられました。研究会の議論の中では、アメリカ連邦政府の「行政コスト計算書」の様式が検討されたようです(この点、廣田達人「『バランスシート』で行政が変わる6.・完―『行政コスト計算書』にみる米連邦政府の改革―」本誌99年6月14日号、加藤秀樹・廣田達人「貸借対照表作り、国も急げ」日本経済新聞・経済教室99年7月21日朝刊、廣田達人「行政評価時代のバランスシート」ぎょうせい『地方財務』99年10月号を参照)。

 しかし、この報告書が取りまとめられた段階において、自治体による行政コスト計算書の実践事例は、まだ一つもなかったのです。また、減価償却費の行政目的(政策費目≒款項)ごとの配分などに煩雑さが伴うため、前述の容易性の原則から、今回の報告書に盛り込むこは見合わせたのでしょう。もっとも、行政コスト計算書は、二〇〇〇年度になってから、岩手、秋田、高知各県や太田市などが作成・公表しています。試作段階とはいえ、政策費目ごとに、歳出総額に、減価償却費、地方債利子、退職引き当てなどを配分して「フル」コスト(コスト総額)を算出するとともに、それをだれが負担するのかを明らかにする仕組みになっており、なかなかメッセージの伝わってくる諸表です。また、政策・施策ごとのコスト総額に対する利用者負担率、国庫等負担率および租税依存率などもはじき出しています。

 分類と計算を精緻化すれぱ、政策ごとのコスト効率の論議ぱかりではなく、「受益と負担」の関係を明らかにし、諸サーピスの使用料問題と絡んで種々の政策論議を活性化する効果が期待できます。これらの行政コスト計算書の導入には、筆者も相当に知恵を絞りましたが、なかなか複雑な配賦計算(管理会計の技法)を必要とし、まきに手作りの取り組みとなりました。

 なお、行政コスト計算書の原語はStatement of Net Costです。直訳すれぱ純コスト計算書ですが、それではコスト総額から料金等収入を控除して租税に依拠する額を計算するという、財政の本質的な作用をとらえた諸表の名称としてはあまりに無味乾燥であると考え、筆者が行政コスト計算書と邦訳して紹介したものです。

主体的・発展的取リ組みに期待 

 報告書が公表されたことにより、今後、町村などの小規模な自治体でも、最低限この決算統計方式による分析的バランスシートに取り組む必要が出てきました。しかし、そこでのパランスシートを公表するときは、あくまで「分析的」パランスシートであることを明記して行うことも大切です。岩手県などでは、総額において決算統計の累計値に依拠せざるを得なかった道路・橋りょうなどは、パランスシートの表内において「推定値」と明記してあります。そうでなけれぱ、道路等を含め、資産として計上された一切の財産について個別に金銭評価額を付した会計管理がなされているかのような誤解を与えてしまうからです。

 一方で、「主な施設の状況」を作成するためにも、少しずつ本来の台帳方式によるバランスシートに近づけるためにも、そして何より個別資産を評価し、行政評価や事務事業評価のツールとしてバランスシートを機能させるためにも、少なくとも公有財産台帳には金銭評価額を付すよう改善を図ることが望まれます。この場合、個々の資産の実際の取得価額は、不明になっている場合が多いでしょうから、例えば土地については、固定資産税評価額の近傍類似価額を用い、建物については、保険評価額をもって資産評価額とすることも一つの解決策です。

 厳密な原価主義ではなくなりますが、開始バランスシートに限り、その時点に一斉に諸資産を取得したとみなし、それらの価額を一種の原価であると解釈することも許容されるぺきです。そして、大切なのは、将来に向かって、実際の取得価額を記録する公有財産台帳における帳票上の仕組みを構築することや、行政情報化の一環として、将来的には、歳出決算(支出伝票)における「公有財産購入費」と公有財産台帳の登録とを連動させるための財務会計システムの調整を試みるぺきです。

 なお、バランスシートや行政コスト計算書の精緻化については、岩手など九県の共同研究会、太田市などの十数市区町の共同研究会が、一歩一歩研究を進めています。いずれも非営利シンクタンクの構想日本(代表・加藤秀樹慶大教授)がコーディネートしており、新たな自治体の参加を歓迎しています。岩手県行政システム改革室や太田市財政課に照会することをお勧めします。


◇ ◇
筆者の廣田達人氏が、八月四日(金)に東京都千代田区平河町の都道府県会館で「バランスシートと行政コスト計算書の連携」をテーマに研修会を開くことになり、参加者を募っている。

当日は、午前十時から午後四時まで、事例と演習を中心にした"実践講義"を展開する。

主な内容は、1.「バランスシート」って何2.英国エージェンシーの財務報告と成果指標(バランスト・スコアカード)3.東京都の連結バランスシート(多摩ニュータウンなど)4.国・公的年金バランスシートによる政策評価5.自治省パランスシート、意義と工夫の仕方(国庫・都道府県支出金を償却する論理、行政コスト計算書との連携)6.行政コスト計算書による政策・施策のフルコストと財政負担(岩手県、太田市など)7.セグメント(施策・事務・事業)(公営住宅・学校給食サーピスのABC・政策目的別採算性評価など)8.独立行政法人会計の自治体への応用9.政府会計想定演習・連結会計想定演習など。

研修会の参加費は、一人二万円(消費税込み)、定員は六十人。研修要項の依頼は、研修会事務局の行政管理研究所(電話03-5816-5157・ファクス03-5816-5158)まで。



お問合せ先: 構想日本
102‐0093東京都千代田区平河町2‐11‐2渡辺ビル3F
TEL:03-5275-5607 FAX:03-5275-5617
e-mail:info@kosonippon.org
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