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公会計制度


2001/05/07(月)
【論文】連載再考 バランスシートで行政が変わる3

「行政コスト計算書」サービスの負担者はだれか
-行政目的別のセグメントで分類- 
2001年(平成13年)5月7日(月) 地方行政


前回(四月二日号)は、福島県会津若松市の財務諾表のうち、バランスシートを中心に紹介しました。同市のバランスシートは、自治省報告(二〇〇〇年三月)を基本に、土地と建物については、台帳の整備に着手したことが特徴であると述べました。自治省報告は、台帳整備を要求する内容にはなっていませんが、付属書類として「主な施設の状況」の作成を勧めている点において、本来はそれが望ましい姿であると認識しているものと、筆者は解釈しています(注1)。

この点、総務省の嶋津昭事務次官が(財)行政管理研究センターの季刊誌で誠に興味深い指摘をしておられます、「世紀の間の地方自治」と題する巻頭言において、地方の行政改革の重要課題について「公会計制度の改革への取組みとして、現在地方団体が熱心に取り組んでいる地方公共団体のバランスシートの作成が急がれなけれぱならない。その場合のポイントとしては、次の三点を留意すべきである。まず、第一に、正確な公用、公共用財産の台帳の整備を急ぐべきである。その場合、簿価(投資額)のみならず、時価の評価にも努力すべきである。第二に、資産と負債の差額(資本)の沿源の分析を進めることが必要である。現在の地方財政制度の下で、国等からの補助金等による資産の増加を評価することも必要であり、何よりも住民の納税資金が自己資本としてどれだけ確保されているかが明確にされなければならない。第三には、地方公営企業や地方公社の経営状況を把握し、地方団体との連結を視野に入れた分析を進めなければならない。また、最近問題となっている第三セクターについても、制度的な経営状況の報告や監査に加えて、実施的に経営責任が及ぶ地方公共団体が共同して結成した第三セクターをも視野に入れた分析を行う必要があろう」(注2)と述べておられます。今後の検討に重要な示唆を与える指摘であると思われます。

さて、今回の本題に入ります。バランスシートは、ストック情報を扱う財務書類ですから、ほかにフロー情報を扱う財務書類が必要です。それが、「行政コスト計算書」です。水道事業会計などの地方公営企業会計や民間企業会計における「損益計算書」に相当します。

行政コスト計算書の基本については、昨年十二月に岩手県等(注3)の自治体の自主研究において「行政コスト計算書・作成の考え方」(前回注2。以下「自主研究報告」という)が公表されているほか、連載初回(三月十九日号)で触れた総務省自治財政局で主宰されている「地方公共団体の総合的な財政分析に関する調査研究会」が昨年のバランスシートに続き、先日、調査研究報告書(副題は「『行政コスト計算書』と『各地方公共団体全体のバランスシート」、以下「総務省報告」という)を公表したところです(注4)。この総務省報皆そのものについては若干触れる程度にとどめ、稿を改めて解説することにし、今回は、総務省報告と基本的な構造(コストと負担の行政目的別対比)を同じくし、かつ同報告にさらなる工夫を加えた方法で作成されている会津若松市(以下「市」という)の行政コスト計算書を紹介します。

バランスシート、特に財政分析としてのバランスシートは、複式簿記や発生主義などの理解が不完全でも、見よう見まねで何とか作成することはできます目しかし、行政コスト計算書は、複式簿記と発生主義に関する相当に構造的な理解が不可欠となります。筆者の経験からは、行政コスト計算書を誤りなく作成するには、単に水道局等の地方公営企業で財務を数年経験しただけでは困難で、原価計算論等の管理会計をも扱う簿記検定(1)一級程度の知識(これに加えて自治体財務固有の知識)が必要となると思われます。

職員の手による作成で何とか形ができたように見えたものでも、中身の計算プロセスに重大な誤りがあった事例を、筆者は多く見てきました。前述の総務省報告も、行政コスト計算書の作成方法について、詳細に記述することを差し控え、概略的な説明にとどまる部分が多くあります。これは、自治体のさまざまな財務会計事実をすべて網羅してその会計処理方法を示すことは容易でないことの表れだともいえます。


1. 行政目的別の管理が特徴

行政コスト計算書は、もともとは、アメリカ連邦政府の決算書類として導入されているStatement of Net Cosst(注5)が原型です。行政コスト計算書は、会計学上の概念である「費用」と「収益」とを対比させて期間収支を計算する財務書類である点においては、損益計算書と異なるところはありません。しかし、本質的な違いは、民間企業と異なり、その期間収支が自治体の「成果計算」を意味するものではないこと(自治体の成果は、住民満足・福祉の向上にあり、期間収支の余剰の獲得が目的ではない)です。このため、「損益」という名称を用いるべきではありません。また、表示上の違いとして、損益計算書のように費用と収益とを一括対比する様式ではなく、福祉、土木、教育といった行政目的ごとにセグメント(予算における款・項などを参考とした区分)を設け、かつ、行政目的ごとに、コストと、料金等の利用者負担とを個別対比します。

民間企業であれば、さまざまな事業を営んでいても、会社全体として利益が出ていれば株主は満足します。しかし、自治体の場合には、公共性の程度や事務の本質の異なるさまざまな行政サービスを提供しているので、それぞれのコストに対する受益者負担(裏を返せば租税依存)の程度を管理する必要があります。全庁的な収支を管理するだけでは「どんぶり勘定」の批判を免れません。利用者負担をゼロに設定すべきサービスもあれば、一〇〇%を目指すべきサービスもあるからです(注6)。総務省報告も、こうした行政目的別のコストとその利用者負担等を対比する様式の行政コスト計算書を採用しています。


2. 一般会計を対象に

会津若松市の行政コスト計算書は、「一般会計」を対象として作成されており、地方公営企業会計を含む特別会計や地方公社等の外部団体は含まれていません。多くの白治体で採用されている「普通会計」による区分ではなく、一般会計によったのは、自主研究報告の次の考え方に従ったものです。

「地方公共団体の会計区分は、一般会計及び特別会計とがある(地方自治法第二〇九条第一項)。
さらに、特別会計の中には、地方公営企業法の財務規定の適用を受けている会計もある。行政コスト計算書は、地方公共団体のすべての会計区分を対象に含めて作成するものとする。ただし、当面は、一般会計のみを対象として作成し、順次、その対象を拡大し、すべての会計区分を含めるよう段階的に発展させる方法により取り組むことも許容されるべきものと考える。その場合にあっては、行政コスト計算書の対象として、具体的には、1.一般会計のみを対象とする方法、2.一般会計と地方公営企業法の財務規定の適用を受けていない特別会計のみを対象とする方法、3.すべての会計区分を対象とする方法とが考えられ、順次、1.から2.へ、そして3.へと発展させるべきものと考える」。さらに、「地方公共団体の財政分析においては、普通会計及び公営事業会計という概念がある。この概念は、財政分析において重要である地方公共団体相互間の比較を可能にすることを目的とし、画一的に地方公共団体の事務及ぴ事業を整理したものである。したがって、個々の地方公共団体の固有の状況によって、その扱う事務及び事業の内容が相違し得る一般会計及び特別会計とは異なる。本研究報告書は、地方公共団体相互間の比較を重視する財政分析を直接の目的とするものではなく、予算及ぴ決算並びに監査等の財務会計制度の中で、発生主義の考え方を活用しようとするものであり、法令や条例などに基づく会計区分に準拠するものとした。ただし、普通会計に相当する一般会計及び特別会計を選ぴ出し、決算書に基づく『普通会計-として行政コスト計算書を作成することは、上記の趣旨に反するものではなく、1.よりも2.に近づく発展的な方法であると考える」(自主研究報告「3.行政コスト計算書の対象とする会計区分」)。

昨年、市では、決算の議会認定とほぼ同時期に行政コスト計算書を議員に説明しています。その際、決算と同じ一般会計を対象とし、さらに、その歳出総額からコスト総額へと誘導的に計算する市の行政コスト計算書の様式(図1=7ページ参照)は、発生主義によるコスト計算を議員に説明するのに便利であったそうです。


3. 歳出とコストどう違う

以下、行政コスト計算書の各列の意義を図1の上部の番号(1~14)に従って見ていきます。 





住民の目線で集計する

(1)「政策費目」

コストの分類には二つの視点が考えられます。すなわち、「目的」と「性質」です。目的別コストの費目としては、予算および決算における「款」「項」などが相当します。民生、衛生、労働、農林水産、商工、土木、消防、教育などの「款」とその内訳である「項」などです。性質別コストの費目は、人件費など、予算上の「節」がこれに近いといえます。市の行政コスト計算書では、より住民の目線からコストを案計すべきであると考え、行政サービスの分類である目的別コストの費目を.基本に据えて縦軸(行)に列記し、性質別コストについては、重要なものについて、横軸(列)に記載しています。基本構造は、目的別コストと性質別コストの「マトリックス」になっています。公表に際しては、詳細性と一覧性とのバランスによって最終の様式を決定するのが良いと考えます。

この点、自主研究報告の「4(1)政策費目の設定」は、「地方公共団体の運営状況を住民に分かりやすく表示するためには、行政コストの計算は、地方公共団体の事務及び事業の執行のレベルではなく政策・施策のレベルで整理し、それぞれのコストと利用者負担等との関係を明らかにする目的別分類を採用する。したがって、地方公共団体における予算の議決の対象となっている款及び項を『政策費目』として行政コスト計算書に反映させ、人件費等の性質別分類である節は、行政コスト計
算書の表内においては、原則としては表示せず、必要に応じて内訳を示す方法によって開示するものとする」としています。

(2)「歳出総額」

歳出総額は、市の一般会計の歳出決算額(支出済額)であり、歳出決算書から数値を集計しています。従って、この数値は、収入役によって調製され、監査委員の審査を受け、議会の認定に付された(地方白治法二三三条)数値であり、そこには制度的根拠が存在し、民主的統制を受けた正当な数値です(この点が、決算統計による普通会計の数値と異なる)。市の一般会計の歳出決算額は三百九十三億円ですが、この数値はさまざまな機会で使用されています。行政コスト計算書をこう
した数値から出発させることが住民への理解を促すのに便利です。ただし、数値の認識・測定は現金主義の官庁会計によるものであり、「カネの消費」を意味するにすぎません。
なお、一般会計の対象事務は、自治体ごとに異なり得るため、財政分析など、他団体との比較を第一に考えるのであれば、普通会計を対象とすることにメリットがあります。

(3)「投資的経費」

歳出のうち、市が行う施設整備などの長期的な効果の発現を期待して行う投資的な支出です。この中には、その事業に係る事務費なども含まれており、すべてが資産の取得に直接的に充当されたものとは限りません。行政目的ごとに施設整備の必要性を示しており、いわぱ「モノによるサービス」であることの程度を概観するための参考情報です。市の場合、四十九億円であり、歳出総額の一二%です。

(4)「人件費」

県の一般職員のみならず、議員、委員、知事等の特別職に対する給料、退職手当を含む諸手当、共済組合への負担金などを集計したものです。このように行政目的ごとの歳出人件費の額を示すことにより、行政目的ごとに「ヒトによるサービス」であることの程度を概観するための参考情報となります。市の場合、八十億円であり、歳出総額の二〇%です。

発生主義で歳出の中身を分析する

(5)「資産の増加」

バランスシートの「資産の部」に計上されているさまざまな財産の取得・建設のための歳出(建設目的の工事請負費や公有財産購入費など一を意味します。ここには、土地・建物、道路等の社会資本のみならず、貸付金、出資金、基金などの財務資源たる財産を形成する歳出も含まれます。

この歳出は、建物など市の財産を形成するもの(モノの取得)であり、それを用いる県のサービス(モノの消費)はまだ始まっていないので、「コスト」は発生していないと考えます。バランスシート上の現金という資産から、建物等の他の資産へと資産の種類が変わっただけであると考えます。市の場合、三十九億円であり、歳出総額の一〇%です。

前述の3.「投資的経費」四十九億円よりも金額が小さいのは、投資的経費のすべてがバランスシート上の資産の形成につながるものではないことを意味しています(この意味でも、決算統計の普通建設事業費をそのまま資産とする方式は、財政分析上は問題がなくとも、個々の資産の評価という会計上の問題が残ります)。

(6)「負債の減少」

公債費のうち元金の償還に当たる部分や退職手当に係る歳出です。これらの歳出は、バランスシートにおける「負債」を償還・精算するものであり、バランスシートの改善をもたらすので、コストではないと考えます。退職手当の支給の経済的性質は、「給与の後払い」ですから、財務的には、バランスシートに負債として計上されている退職給与引当金(注7)(未払い給与のようなもの)の精算を意味すると考え、コストから除外します
(負債の減少として処理)。市の場合、図1の下部に記載されているとおり、総額約四十九億円であり、退職給与引当金の減少七億九千六百万円、損失補償引当金七億五千五百万円、市債(元金)二十九億八千九百万円などとなっています。

(7)「歳出コスト」

ここでは、1.の歳出総額から「資産の増加」と「負債の減少」というバランスシート(資産と負債)に係る歳出が除かれた残額が計上されています。この残額は、歳出のうち、今年度の県のサービスによるヒトやモノの消費を伴う純粋なコストであり、「消費的支出」(あるいはランニング・コスト)に近い概念です。会計的には「支出を伴う費用」と表現します。市の場合三百四億円であり、歳出総額の七七%です。

意外なコストが!

(8)「市債利子」

公債費の中には、バランスシートの負債における市債残高を減少させる元金償還部分と、そうでない利子部分とがあります。バランスシートを改善(負債を償還)しない利子の支払いはコストですが、現行予算制度では、公債費として一括されており、それがどの政策に係るコストなのか明確にはされません。その結果、財政課以外の各原課では、この利子コストに対する認識が希薄になりがちです(この点は、前回指摘した、借金を各課でも自覚すべきことと同趣旨です)。行政コスト計算書では、市債の政策費目別の残高を基準に市債利子を配賦します。その結果、土木費に九億四千五百万円、教育費に四億一千五百万円などが配賦され、それぞれのコストとなっています。土木では、道路等の社会資本の財源として、教育では、小・中学校等教育施設の整備の財源として発行した市債に係る利子コストが配賦されています。市全体として、これまで公債費に一括されていた市債利子十八億三千七百万円が、土木費等の各政策費目に配賦されたことになります。

(9)「退職引当等」(退職給与引当金)

歳出決算において、退職手当は総務費から支出され、その人件費の中に含まれています。退職手当を当該職員の退職時の所属部課の予算から支出したのでは不合理であり当然の扱いです。
しかし、退職手当に係るコストは、当該職員の勤続期問の各年度に絵与として「発生」していたものと会計上は考えます。6.において、退職手当の支出額をコストから除外したことと対照的に、その発生額をここでコストとして認識します。バランスシートにおいては、退職給与引当金という負債を積み増しします。ここでは、法的な債務と区別するため「引当金」という名称を付します。市では、教育費に一億八千三百万円、土木費に一億円、民生費に一億七百万円などが発生人件費として配賦され、それぞれのコストとなっています。

(10)「減価償却」

資産の増加に係る5.の歳出は、コストから除外されましたが、建物等は、サービスの提供や時の経過に伴って損耗するものです(こうした資産を償却性資産という)。行政コスト計算書では、この損耗額について、「減価償却」の手続きを適用して発生コストを計算します。すなわち、現金主義の歳出予算・決算が「資産の建設」カネの消費)に焦点を当てるのに対し、発生主義のコストは、「資産の使用」(モノの消費)に焦点を当て、行政の「活動」を評価しようとするものです。もちろん、減価償却は、土地などの物質的に損耗しない財産(芽償却性資産という)や貸付金や出資金などの財務的な資源には適用されません。市では、土木費に十四億七千九百万円、教育費に六億五千八百万円など合計して二十三億二千八百万円が各政策費目に配賦されています。

本当のコスト

(11)「コスト総額」

ここまでの手続きにより、2.の「歳出総額」(現金主義)から11.の「コスト総額」(発生主義)へと調整が加えられました。今年度、市が実施したさまざまな行政サービスについて、ヒト、モノ、カネ(補助金など)といった行政資源の使用状況に焦点を当て、市の「活動」を測定したものです。市のコスト総額は、三百三十七億円ですが、この数値こそが、財務的視点で見た市の活動(ヒト、モノ、カネの動き)の規模(ボリューム)なのです。

利用者等の負担・国等の個別負担

行政コスト計算書におけるコスト総額は、受益と負担の対応関係を評価するときにも有意義な情報を提供します。採算の程度を評価する場合には、ランニング・コストなどの部分的なコストのみでは不十分であり、発生主義に基づくコスト総額を把握する必要がありますし、水道事業などの地方公営企業の予算・決算では現にそうなっているのです。また、公営住宅は、予算・決算上は現金主義ですが、その家賃算定においてはほぼ発生主義に近いプロセスでコスト計算を実施しているはずです。

行政コスト計算書は、こうした受益と負担の対応関係を示すに際して、負担を大きく四つに区分します。すなわち(1)行政サービスの直接の利用者による負担(使用料、手数料等)(2)国等による個別負担(国庫支出金等)(3)住民による一般的な負担(市民税、固定資産税等)(4)川国民による全体的な負担(地方交付税、地方譲与税等)です。そして、前二者においては、政策費目ごとに対応関係を明らかにする様式を取ることが行政コスト計算書の重要な特徴といえます。

(12)「料金等収入」

ここには、諸施設の使用料、特定の事務の手数料、基金や貸付金(債権)の利子収入など、行政サービスの直接の受益者による負担が計上されています(図2参照)。



使用料・手数料は、主に市のサービスのうち、その受益者たる利用者が特定しでいるサービスに対する、その受益者による負担です。市のサービスのほとんどは独立採算を前提にしているものではありませんが、受益者負担の観点から、一定額を直接の受益者たる利用者が負担することは、一般住民との関係において公平であると考えられることから、その程度を評価する必要があります。

市の場合、コスト総額が三百三十七億五千五百万円であるのに対し、利用者等の負担である料金等は十七億三千五百万円にとどまり、利用者負担率は、全体で五%程度になっています(全国の標準的水準であると思われますが)。一般会計が扱うサービスのうち最も利用者負担率の高いものは、土木費の中にある住宅費で、五四%です。

より具体的には、前の住民票写しと印鑑証明の交付手数料は、ともに一件百円となっており(図2参照。今年七月から二百円に改定)、一般的な水準よりも低いといえます。その結果、戸籍住民費(総務費)の利用者負担率は、一二%と低い水準となっています。この点、自主研究会の他市の例では、例えば岐阜県羽島市(同一件三百円)が二五%、福井県鯖江市(同)が三三%などとなっています(両市の負担率が異なるのは、戸籍など他の事務やその手数料などが関係するからです)。住民票写しや印鑑証明という事務の本質からして、どの程度を利用者が負担し、どの程度を一般住民が税で負担するのが公正であるのか、もっと議論する必要があるでしょう。さらには、単に手数料を廉価に設定しても、それは、一般住民の負担を増やすのみで、決して市のサービス向上ではないということです。

利用者負担率については、一般会計よりも受益と負担の対応関係が明確な国民健康保険等の特別会計、水道事業等の地方公営企業会計などで、より重要な意味を持ちます。また、それらを総合した「連結・行政コスト計算書」を導入すれば、一般会計からの繰出金等が消去され、採算性が如実に表れます。また、使用料等の問題については、特に市町村においては、水道料金、下水道使用料の問題などで、既に住民、議会、行政の間において恒常的な課題となっています。公的介護保険制度の創設(料金を軽減したり、要介護者とならない高齢者等に対し、一般財源等による独自のサービスを実施する場合など)に代表されるように、受益と負担の問題を伴う政策課題は、これからの行政に一層多くなると見込まれるなか、行政コスト計算書によって、財政・財務の管理を整備する必要があります。

(13)「国庫等負担」

ここには、国庫負担金、国庫補助金および委託料といった国庫支出金等が含まれます。市が実施したサービスのうち、国の政策判断により国庫が負担した場合における収入、その他、国の事務に市が協力したことに対する対価としての委託金収入があります。これらは、国が具体的な個々の事務に対して負担をするものです。行政コスト計算書は、この国庫負担を政策費目ごとに対応表示していますが、この政策費目をさらに細分化・精緻化すれば、国が重点を置く施策と、これを踏まえて市が判断して実施した施策との関係など財務構造の全容を理解することができます。

技術的に注意を要することとして、この国庫等負担は、歳入決算の数値を単純に記載するものではなく、その対象となる事務・事業のコストと対応関係を維持しながら計上されるということです。すなわち、国庫支出金等のうち、a歳出コストの財源として収入した部分は、ダイレクトに行政コスト計算書の国庫等負担の区分に記載されます。しかし、国庫支出金等のうち、bバランスシートに計上される資産の取得の財源として収入した部分は、バランスシートの正味資産の「国庫支出金」に記載されます。この正味資産たる国庫支出金のうち、その対象たる資産の減価償却に対応する部分を「戻入れ」(償却し)て、バランスシートの正味資産を減額するとともに、同額を行政コスト計算書の国庫等負担に計上するのです。要するに、行政コスト計算書の国庫等負担は、a歳出コストの財源で現金収入の伴う国庫支出金等と、b資産の財源で過去の現金収入によってバランスシートの正味資産に計上されていた国庫支出金等の減価償却に伴う戻入れと、aとbの二つから構成されるのです。市の場合、図1の下部にコメントされているように、aは五十七億六千百万円で、bは六億二百万円となっています。

税に依存するコスト

(14)「行政コスト」

行政コストは、コスト総額から、利用者の負担、国等の個別負担を控除した残額です。市は、企業のような独立採算を前提とする施策は少ないので、ここに残額が残るのは当然です。むしろそうでなければ税を賦課する根拠がないというべきです。しかし、それでも行政コストを計算するのは、市のサービスに係るコストを「だれが」負担するのかという議論をするうえで、それが極めて重要な情報となるからです。いくら白治体が公益を目的とするといっても、政策・施策、事務・事業によって公益の程度は相当に異なるのであり、受益者に一定の負担をいただくのが公平である事務・事業が存在することはだれの目にも明らかです。そのために、使用料・手数料(地方自治法二二五条、二二七条)や料金(地方公営企業法二一条)などの制度があるのです。その状況を明らかにすることは、こうした制度において、情報による民主的統制を可能にするうえからいって極めて重要なことといえるでしょう。

また、自治体の財政運営の現場では、どちらかといえば直接の利用者に料金等の負担をお願いすることには苦労が多く、その分、安易に一般財源に依存してしまう傾向がないとはいえません。政治的背景も影響するでしょう。こうした環境においても「一般財源におんぶに抱っこ」の財政運営に陥らないよう、行政コスト計算書によって、政策・施策ごとの「租税依存率」を注視したいものですむなお、市の行政コストは、二百五十六億一千百万円で、租税依存率は七六%となっています。

4. 正味資産計算書-
バランスシートの変化を探る

次に正味資産計算書(図3)について説明します。


発生したコスト総額のうち、利用者や国等の個別負担で賄いきれなかった部分(行政コスト)は、税等に依存することになります。行政コストを税等で賄うことができればよいのですが、そうでなければ、「今年度の期間収支はコスト超遇(企業会計でいう単年度赤字)」ということになります。

なお、公債発行収入は、今年度の負担ではなく、将来の負担なので、期間収支からは除外されます。行政コスト計算書において、バランスシートの資産の増加にかかる歳出がコストから除外されたのと同じように、バランスシートの負債の増加にかかる歳入である公債発行収入は、負担(企業会計でいう収益)から除外されるのです。別の見方をすれば、歳出のうち公債費(元金部分)がコストから除外されたのと同じように、歳入のうち公債発行収入は負担から除外されるのです。

(15)「税負担」

行政コストは、広く住民や国民が租税により負担することになるコストです。さまざまな施策の中には、受益者が特定され、利用者等がある程度の割合を負担することが公平であるものもあることは前述のとおりですが、市のサービスの大部分は、この税等に依拠することになります。

この税等は、おおよそ、住民の負担と国民の負担とに分けることができます。「1 主な市民の負担」としては、1.個人の市民税(市では四十三億円)2.法人の市民税(同十四億円)3.固定資産税(同八十五億円)5.市たばこ税(同十億円)などがあります。「2 主な国民の負担」としては、1.普通地方交付税(同八十四億円)などがあります。これら税等を合計すると市では二百六十八億円(15.)となります。

(16)「行政コストVs税負担」

行政コストと税負担の差額は、まさに、期間収支の結果です。今年度の行政サービスを資源(ヒト、モノ、カネ)の消費に焦点を当てることにより、市の活動のコストを評価し、そして、それが、(1)利用者(2)国(個別的負担)(3)住民(4)国(一般的負担)の四者によって、どの程度今年度に負担されたのか、過不足はないのかを示すのです。公債発行収入は、「財源」でこそあれ、利用者、住民、国民の痛みを伴う「負担」ではないので、発生主義会計においては、期間収支から除外され、バラ
ンスシートに記載されます。よって借金に依存する財政運営を行うと、期間収支はたちまち赤字となります。発生主義は、こうして財政の実態を明瞭に示し、住民や議会、その他の関係者に注意を喚起する機能を発揮する考え方なのです。市では十二億七千百万円の黒字を計上しています(会津若松市では黒字でしたが、昨今の経済情勢からは、府県の大半とかなり多くの市区町村で赤字となると筆者は予想します。もちろん行政の場合、直ちに「赤字が悪」だとはなりません。不景気のときはむしろ赤字を計上してでも積極的な運営姿勢を取ることが財政の役割ともいえます)。

本稿は、会津若松市の行政コスト計算書と正味資産計算書の概要を紹介しました。総務省報告を理解するうえでも、より親切な様式で作成されている同市の行政コスト計算書は、よい教材になるでしょう。次回は、引き続き同市の行政コスト計算書について補足をしたうえで、キャッシュ.フロー計算書を、さらには秋田県の県営住宅の行政コスト計算書等へと話を進めていきます。



◇ ◇
(注1)廣田達人「"財政分析"としてのバランスシート」地方行政(時事通信社、二〇〇〇年六月十二日号) 

(注2)嶋津昭「世紀の間の地方自治」季刊・行政管理研究93号(財団法人行政菅理研究センター、二〇〇一年三月〕。

(注3)岩手県の行政コスト計算書について、廣田達人「実践・行政コスト計算書による財務評価」地方財務(ぎょうせい、二〇〇〇年七月)を参照。本稿は、この補足・改訂版ともいえる内容である。

(注4)総務省,地方公共団体の総合的な財政分析に関する調査研究会報告書』(「行政コスト計算書と各地方公共団体全体のバランスシート」)平成十三年三月。

(注5)廣田達人「連載・バランスシートで行政が変わる6.完-『行政コスト計算書』アメリカ連邦政府の改革」地方行政(一九九九年六月十四日号、時事通信社)にて、同書類を「行政コスト計算書」と邦訳して紹介した。

(注6)例えば公営鏡技の開催および宝くじの発行は、基本的に財源確保が目的であるから、その収入がコストを超過すべく管理する必要がある(もちろん、娯楽の提供等の公益目的の存在を指摘する説もある)。他方、公立図書館は、入館や資料利用に対するいかなる対価を徴収してはならないことは法律で決まっていることである(図書館法一七条)。

(注7)退職給与引当金については、会津若松市と同様の取り組みをした東京都文京区を事例にして紹介した。廣田達人「財務評価における引当金の意義」自治体学研究82号(神奈川県自治総合研究センター、二〇〇一年三月)

◇ ◇
筆者紹介=廣田達人(ひろたみちと)氏。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(公法〕。専門は、国・自治体の財務会計法。主な著書は『独立行政法人の財務・会計』(二〇〇〇年
十二月、(財)行政管理研究センター)など。



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