• 構想日本の活動

道路公団


2001/11/24(土)
【書評】道路公団解体プラン

文藝春秋社『本の話』2001年12月より
書評「破綻寸前の道路公団の処方箋」
柳井正 (株)ファーストリテイリング代表取締役社長

NHKのテレビ番組「プロジェクトX」が人気だ。本州四国連絡橋の建設工事、あるいはH2ロケットの打ち上げの前に、立ち塞がる難題。
それに一丸となって立ち向かう技術者や職員たちの労苦に感動し、苦難を乗り越えた末の完成シーンに、我が事のように涙する。そして、こんな素晴らしいプロジェクトをやり遂げた日本の技術力を誇りにも思う。

ところが、これら「素晴らしい」プロジェクトのいくつかが、実は失敗であった可能性が高いのだ。
例えば、本州四国連絡橋は、当初見込んだ交通量をはるかに下回り、今や累積赤字で事業としては全く成り立っていない。
もちろん、これは「プロジェクトX」の登場人物たちとは全く別次元の話だ。いや、彼らの涙ぐましい努力が事業としては十分に生かされていないだけに、余計に残念に思う。

そして、これらの事業を見直して行こうというのが、小泉内閣が掲げている特殊法人改革なのだ。本州四国連絡橋公団は失敗例の筆頭格だし、H2ロケットの宇宙開発事業団も対象に入っている。
本書において、非営利独立のシンクタンク「構想日本」は、中でも最大最強の特殊法人日本道路公団を例に取って、その処方箋を示してくれた。

一読してわかったことは、道路公団に代表される特殊法人の抱える構造的欠陥と、その事業の失敗によって国民に転嫁される不良資産のあまりの大きさだ。
このまま行けば、将来四十兆円を超える借金が国民に付け回される。国鉄の時ですら、二十八兆円だ。
マイナス成長の今の日本に、これを処理する体力があるわけがない。しかも、「優良法人」とされている道路公団をもってすらこのありさまだ。
公団から公表されている数字が結果的に「粉飾」となっているのは、不良債権問題で経験ずみだ。

いわんや、もともと赤字の本州四国連絡橋公団やその他諸々の特殊法人は一体どうなるのか。考えただけでもゾッとする。いったいどこに問題があるのか、構想日本チームは道路公団を例にとり、まず制度面の問題点を鋭く追及する。
ここでは、「償還主義」と「プール制」という、二つの大きな「ドンブリ勘定」が、何十年の間に制度疲労を起こし、個々の事業の収支がわからないことをいいことに、プロジェクトを推進する側(道路公団と旧建設省)にとって都合の良いように運用されてしまっていることが理解できる。

次に、道路公団独特の会計方式によって隠されてきた事実も明らかにしている。道路公団は様々なレトリックを駆使して、「経営は健全」とアピールするが、実状は国鉄が赤字転落した時と大差ないどころか、あの国鉄よりも悪い数字すら存在する。
加えて、親方日の丸といわれる無責任体質、不十分な情報公開など、構想日本チームが、改革は待ったなし、とするのも当然と納得させられてしまう。

多くの特殊法人の事業を見ていると、かつての日本の軍隊を思い浮かべてしまう。軍幹部の様々な判断ミス――相手の戦力=需要見通し、味方戦力=コスト、無理な兵站=資金計画・返済計画、世界情勢=社会経済の長期見通し等々。
その判断ミスを認めようとせず、さらに糊塗しようとして、どんどん墓穴を掘っていくところ、撤退=赤字を転進=黒字と強弁する大本営発表……。
 そして、軍幹部のミスの積み重ねに踏みにじられるのは、つねに前線兵士たち=現場の職員たちなのだ。さらに、シビリアンコントロールのなさは、利害ばかりに動かされる政治家のあり様に通じる。

このような現状を検証したうえで、本書は、現行制度の問題点を解消し、既に存在する二十三兆円もの債務を税金投入なしで返済していくための最も好ましい選択は、民営化であると結論づける。
そして、公表されたデータをもとにシミュレーションを行い、「リース方式」や「清算事業団方式」による負債処理案を示している。
これまで、特殊法人問題については、個別の事業の失敗やスキャンダル、天下りなどエピソード的、断片的な問題指摘、あるいは、概括的な分析は多くあったが、制度を熟知したうえで、厖大な数値を厳密に分析したものとしては、本書が初めての試みではないか。

「プロジェクトX」ではないが、このチームの忍耐と労苦は大変だったと思う。また、これだけ精緻に分析して見せられると、一道路公団に限らず、他の同様の特殊法人についても問題の所在が見えてくる。
道路公団をはじめ特殊法人改革が今や正念場を迎え、政治家や省庁などの強烈な抵抗が始まっているだけに、タイムリーだ。
本書の前書きでも言っているように、日本の改革を願う人は(拾い読みでもよいので)是非一読して「願う」だけではなく、そろそろ自ら声を出そうではないか。
私たちが大いに声を出すことこそが、日本の将来のためを思って、渾身の力をふるった「プロジェクトX」の登場人物たちの努力に応えることにもなるのだ。



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